2021年改正著作権法の概要

Posted by Hideto Nakai on 2021/06/09

改正著作権法が、2021年5月26日、参議院で可決され、成立しました(以下「2021年改正」といいます。)。施行期日は、後記(3)及び(4)に関する規定についてのみ、2022年1月1日と定められています。2021年改正の概要は、以下のとおりです。


(1)絶版等資料の国立国会図書館によるインターネット配信

従来、図書館等(図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの)の利用者が、絶版等資料(絶版となった図書等)を閲覧しようとする場合、国立国会図書館から他の図書館等へ複製物又は電磁的記録を送付し、その後、利用者が送付先の図書館等の館内で閲覧又はその一部分の複製物を受け取る必要がありました。

そこで、2021年改正では、予め登録した利用者が、国立国会図書館のウェブサイトにアクセスして、絶版等資料のデータを閲覧すること(31条8項)、及び、その全てについて自己利用のための複製並びに非営利再伝達(23条2項参照)することが許容されるようになりました(31条9項)。

(2)図書館資料の図書館等によるメール送信等

従来、図書館等の利用者は、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間経過したものについては全部)の複製物を受け取ることはできましたが、電子メールで受け取ることはできませんでした。

そこで、2021年改正では、予め登録した利用者が、一定の要件を満たした図書館等から、電子メールで公表された著作物の一部分(著作権者の利益を不当に害しないものとして政令で認められたものについては全部)の複製物を受け取って、その調査研究の用に供するために必要と認められる限度で、当該著作物を複製することが許容されるようになりました(31条2〜4項)。ただし、この場合、上記の図書館等は、相当な額の補償金を当該著作物の著作権者に支払うものとされました(同条5項)。

(3)同時配信・追っかけ配信される放送番組等の非営利再伝達

従来、放送中の放送番組又は有線放送中の有線放送番組(以下、放送番組及び有線放送番組を併せて「放送番組等」といいます。)については、非営利再伝達が許容されていましたが、インターネットで配信されている著作物は、放送中又は有線放送中の放送番組等との同時配信を除いて、その対象外とされていました。

そこで、2021年改正では、上記の同時配信に加えて、追っかけ配信(異時配信のうち、放送又は有線放送終了前に配信を開始するもの)についても、非営利再伝達が許容されるようになりました(38条3項。なお、見逃し配信(異時配信のうち、放送又は有線放送終了後に配信を開始するもの)については、対象外です。また、大型スクリーンを用いて映写する場合の放送事業者の再伝達権(100条)も制限されません。)。

(4)同時配信・追っかけ配信・見逃し配信される放送番組等の権利処理の円滑化

放送事業者が、放送に加えて配信による収益確保を図ろうとすると、権利者不明、所在不明等による孤児著作物問題、権利者多数の場合のアンチ・コモンズ問題が、事実上の障壁となります(注)。

そこで、2021年改正では、放送番組等の同時配信・追っかけ配信・見逃し配信(以下、これらを併せて「放送同時配信等」といいます。9条の7参照)に関して、

  • 放送同時配信等に対する権利者の許諾推定(63条5項)
  • 商業用レコードの放送同時配信等に対するレコード製作者・実演家の権利の集中処理の促進(94条の3、96条の3)
  • リピート放送(再放送)の放送同時配信等に対する実演家の権利の集中処理の促進(93条の3、94条)
  • 放送同時配信等の許諾につき協議不調の場合の裁定許諾の拡充(68条)

等の措置が図られました。


(注)これらの問題に関しては、田村善之「続・続。日本の著作権法のリフォーム論」Law&Technology90号1〜11頁(2021年)参照。