独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入について

Posted by Hideto Nakai on 2022/03/12

1 はじめに

現在、文化庁の文化審議会著作権分科会にて、近い将来の法改正を念頭に、標記の論点及びこれと密接に関連する論点である、独占的ライセンスの対抗制度の導入について、検討が進められています。そして、上記の分科会のワーキングチームは、令和3年12月2日付け「独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書」(以下「報告書」といいます。)を公表しました(注1)。以下、その概要をご紹介します。

2 報告書の概要

報告書は、独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入すること(以下「本検討課題」といいます。)が適当であることを前提として、本検討課題に対して想定される課題解決手段として、主に、①独占的利用許諾構成と②専用利用権構成を取り上げて、それらの優劣を比較、検討しました(注2)。そして、報告書は、①独占的利用許諾構成を「有力な選択肢になる」と評価する一方、②専用利権構成についても、「選択肢として否定されない」として、いわゆる両論併記の形で総括しました(同87頁)。
ただし、報告書は、以下の点を挙げて、専用利用権構成と比較した、独占的利用許諾構成の優位性を示唆しています(同75~83、85頁)。

⑴ 制度上で差止請求権を認める独占的ライセンスの類型として、不完全性独占的ライセンス等の独占性の人的範囲を限定した独占的ライセンスも許容されること

⑵ 独占的利用許諾構成においては、独占性のみを対象とする対抗制度を導入することになり、利用権については、著作権法第63条の2の当然対抗制度の対象となる。その結果、独占的ライセンス契約締結後に著作権等が譲渡され、独占的ライセンシーが当該独占的ライセンスについて対抗要件を具備する前に著作権等の移転の登録がなされた場合、新著作権者等から独占的ライセンシーに対する差止請求は不可となること

⑶ 独占的利用許諾構成においては、元々債権的な効力を基調とする契約を基礎としている点において、著作権の一部譲渡において議論されている、①地理的一部譲渡及び②内容的一部譲渡の問題と同様の問題において、柔軟な権利設定を認める解釈がなされる可能性があること(事実上、制度の受け止め方として、柔軟に設定できる権利として受け止められ、そのように運用される可能性を含む。)

他方で、報告書は、課題解決手段としてのその他の構成については、①独占的利用許諾構成及び②専用利用権構成のいずれの構成においても、本検討課題への対応において不十分又は不都合となることはないと考えられることから、検討不要と総括しています(同86頁)。

3 まとめ

本検討課題に関しては、従来、現行法の下で、研究者・実務家から、債権者代位権の転用により著作権者等の有する債権者代位権を代位行使するという方法も主張されてきました(注3)。しかし、報告書において、上記のとおりの方向性が示されたことから、今後は、文化庁において、独占的利用権構成の採用の可否を念頭において、法制化に向けた議論がなされるものと思われます。


(注1)詳細は、文化庁のウェブサイト参照。

(注2)報告書は、課題解決手段を以下のとおり定義しています(同5頁)

⑴ 独占的利用許諾構成:現行法のもとで債権的な効力しかないとされる独占的ライセンス契約について、一定の場合に著作権等の譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができる制度を導入する形での課題解決手段

⑵ 専用利用権構成:分野を限らない形で、特許法における専用実施権や著作権法における出版権のような準物権的な独占的利用権を創設する形での課題解決手段

(注3)栗田昌裕著「独占的ライセンスと差止請求権」・ジュリスト2021年12月号40頁参照