フリーランスその他雇用類似の働き方をする者の著作権等の保護の方策とその課題

Posted by Hideto Nakai on 2022/08/27

1 はじめに~労働者概念拡張による著作権保護について

フリーランス(注1)その他雇用類似の働き方をする者(以下「フリーランス等」といいます。)の権利保護に関しては、一般に、労働者概念の拡張により、労働者保護法制を通じて実現されることが企図されます。しかし、著作権及び著作者人格権(以下「著作権等」といいます。)の帰属に関しては、雇用関係の成立が認められて、成果物が職務著作(著作権法第15条)に当たると判断された場合、原始的に使用者に著作権等が帰属します(同法第17条1項)。それゆえ、この方向性によってフリーランス等の適切な保護を図ることは不可能です。

そこで、以下、主に独占禁止法、下請法その他の競争法によって、フリーランス等の著作権等を保護することとその課題について検討します。

2 競争法による保護とその課題

(1)フリーランス等が発注事業者に提供する役務の成果物について、フリーランス等に当該役務の成果物に係る著作権等が発生する場合において、取引上の地位がフリーランス等に優越している発注事業者が、自己との取引の過程で発生したこと又は役務の成果物に対して報酬を支払ったこと等を理由に、当該役務の成果物に係る著作権等の取扱いを一方的に決定する場合に、当該フリーランス等に正常な商習慣に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となります(独占禁止法第2条9項5号ロ・ハ)(GL9頁参照)。

また、下請法の規制の対象となる場合で、発注事業者がフリーランス等に対して、自己のために役務の成果物に係る著作権等を提供させることによって、フリーランス等の利益を不当に害する場合には、下請法第4条2項3号で禁止されている不当な経済上の利益の提供要請として問題となります(GL9頁参照)。

(2)ただし、これらの違反が認められた場合でも、エンフォースメントの点で課題を残すものと思われます。

まず、独禁法又は下請法に違反する事実が認められた場合には、公正取引委員会は、排除措置命令(独禁法第7条1項)や、親事業者に対する勧告(下請法第7条)等を行うことができます。しかし、フリーランス等からの申告(独禁法第45条)がなされた事件を被疑事件として調査するかどうかは、公正取引委員会の自由裁量に委ねられているものと解されます(注2)。それゆえ、申告がなれても、必ずしも救済が図られるものではありません。

そこで、フリーランス等としては、民事訴訟を提起して、役務の成果物に係る著作権等の取扱いを定めた契約条項が独占禁止法又は下請法に違反することを理由に、当該契約条項が公序良俗に反して無効(民法90条)であると主張することが考えられます。

この点、最高裁昭和52年6月20日判決が、独禁法違反を理由として直ちに契約条項が無効となるものではない旨判示していたところ、札幌地裁平成30年4月26 日判決は、返品合意が優越的地位の濫用に該当し、公序良俗に反して無効である旨判示しました(注3)。また、札幌地裁平成31年3月14日判決も、一般論として、「取引の一方当事者が、暴利行為(略)ないし優越的地位の濫用(略。独禁法2条9項5号参照)に及んだ場合には、民法90条により当該取引条件を無効とすることにより相手方当事者を救済し、健全な取引秩序を回復する必要がある」と述べて、民事救済の余地を示唆しました(注4)。

上記の裁判例以外にも、代金の減額、返品合意など報酬を減じる内容の契約条項を無効と判示した裁判例はあります(注5)。しかし、公刊された裁判例には、役務の成果物に係る著作権等の取扱いを定めた契約条項が独占禁止法又は下請法に違反することを理由に、公序良俗に反して無効(民法90条)である旨判示したものはないようです。今後の事案の集積が待たれます。

3 プラットフォームワーカー特有の問題点について

ところで、マッチング型プラットフォームを通じて仕事を受託する者(以下「PFワーカー」といいます。)については、仮に、利用約款において、PFワーカーに不利な内容の定め(例えば、成果物の著作権は、その対価の有無を問わず、発注者に帰属するものとするなど。)がなされている場合(注6)、民法上の定型約款規制により、その保護を図ることも考えられます。その場合、定型約款該当性とともに、不当条項該当性判断の前提としてのデフォルトルールの設定が問題となります(注7)。


(注1)令和3年3月26日「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「GL」といいます。)は、フリーランスについて、実店舗がなく、雇人もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者と定義しています。

(注2)公正取引員会による独禁法第45条1項に基づく報告・措置要求を不問に付する旨の決定を抗告訴訟で争うことは許されない旨判示した、最高裁昭和47年11月16日判決参照。

(注3)控訴審である札幌高裁平成31年3月7 日判決も原判決を支持。

(注4)ただし、結論は請求棄却。控訴審である札幌高裁令和2年4月10日も控訴棄却。

(注5)第二東京弁護士会労働問題検討委員会編・フリーランスハンドブック108頁参照

(注6)この点、代表的なマッチング型プラットフォームであるランサーズの利用規約では、PFワーカーが提案した成果物等の著作権等の権利に関し、当事者間取引により譲渡されない限り、作成したPFワーカーに帰属する旨定められています(同第16条1項)。

(注7)鹿野菜穂子著「民法(特に契約法)からみたプラットフォームワーク」・ジュリスト1572号47頁参照