生成AIと著作権について

Posted by Hideto Nakai on 2023/08/22

1 はじめに

ビジネスやプライベートの様々な場面において、ChatGPTに代表される生成AIの利用が、急速に広がりつつあります。現在、文化庁文化審議会著作権分科会において、生成AIと著作権を巡る諸論点について、議論がなされています(注1)。

以下、AI開発・学習段階、生成・利用段階に分けて、各論点の整理と検討を行います。

2 AI開発・学習段階

他人の著作物を学習用データとして収集・複製し、学習用データセットを作成し、当該データセットを利用して、学習済みモデルを作成した場合、著作権(複製権)侵害となるかが問題となります(注2)。

著作権法上、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」(非享受利用。著作権法30条の4柱書)には、権利制限の対象となり得ます(注3)。この点、学習用データの収集・複製行為は、学習済みモデルの生成に向けられた行為であり、「享受」の目的を有するものではないと考えます。

しかし、この場合でも、「著作権者の利益を不当に害する場合」には、著作権侵害となります(同条但書)。そして、この場合に当たるか否かは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するかどうかや、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかどうかという観点から、個別具体的に判断されます(注4)。例えば、他人の著作物と同一又は類似の著作物の生成を意図して、当該他人の著作物を含むデータセットを作成し、その結果、生成物にも類似性が認められる場合には、市場における商品・サービスの競合が認められることから、「著作権者の利益を不当に害する場合」に当たり、著作権侵害となるものと考えます。

3 生成・利用段階

⑴AIの利用者が、自らの業務遂行過程において、プロンプトに他人の著作物を含めて入力した場合、著作権(複製権)侵害となるかが問題となります。

上記2の場合と同様に、非享受利用の場合(著作権法30条の4柱書)には、権利制限の対象となり得ます。この点、プロンプトに他人の著作物を含めて入力する行為は、一定の出力結果の生成に向けられた行為であり、「享受」の目的を有するものではないと考えます。

しかし、この場合でも、「著作権者の利益を不当に害する場合」には、著作権侵害となります(同条但書)。この点、著作物が有する経済的価値が具体化するのは生成物の利用段階(後記⑵)であることから、その段階で著作権侵害となる場合には、生成段階でも「著作権者の利益を不当に害する場合」に当たり、著作権侵害となり得るものと考えます。

⑵生成物が他人の著作物と同一又は類似である場合、依拠性が認められ、著作権(公衆送信権、複製権等)侵害となるかが問題となります。

AIの生成物をアップロードして公表し、又は複製物を販売する場合には、原則として、①同一又は類似性、②依拠性によって、著作権侵害の有無が判断されます。以下、上記①の要件を満たすことを前提に、場合を分けて検討します。

ア 学習用データの中に当該他人の著作物が含まれていない場合

この場合には、偶発的に類似したものとして、依拠性は認められないもの考えます。

イ 学習用データの中に当該他人の著作物が含まれている場合

この場合には、依拠性の有無を個別具体的に判断することとなります。例えば、生成段階で、他人の著作物と同一又は類似の著作物の生成を意図して、プロンプトに当該他人の著作物を入力し、その結果、生成物にも類似性が認められる場合には、依拠性が認められ、著作権侵害となるものと考えます(注5)。


(注1)令和5年6月23日開催の第23回第1回会議の内容は、こちらを参照。

(注2)この点、日本新聞協会など4団体は、令和5年8月17日、生成AIに関する共同声明を発表し、関係当局に対し、技術の進歩に合せた著作権保護策の検討を求めています。

(注3)「享受」とは、著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されます(小泉直樹ほか・条解著作権法416頁[茶園成樹])。なお、問題となる行為が、同条1号から3号までに列挙する場合に当たらなくても、非享受利用に当たれば、権利制限の対象となり得ます(同417頁)。

(注4)前掲茶園417頁。なお、注1)の参考資料4には、「著作権者の利益を不当に害する場合」として、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合が例示されています。

(注5)中央経済社編・ChatGPTの法律96頁[橋詰卓司]参照。