1 はじめに
映画の著作物(注1)については、著作権法上、映画製作者(「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」。著作権法2条1項10号)、著作者(「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」。著作権法16条本文)及び著作権の帰属(「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」。著作権法29条1項)を定める規定があり、特段の合意がない限り、上記の各規定の適用により著作権の帰属が決せられます。
従来から、ゲームソフト、テレビCM原盤その他の劇場用映画以外の映画の著作物について、著作者・映画製作者が争われた事例がありましが、近時、医学書附属のDVDに収録された映像(以下「本件映像」といいます。)の著作者・映画製作者について、原審と控訴審とで異なる判断を示した事例が現れました(東京地裁令和5年8月30日判決、知財高裁令和6年3月28日判決(注2)。以下、前者を「地裁判決」、後者を「高裁判決」といいます。)。
そこで、以下、映画の著作物の著作者・映画製作者に関し、上記の判決を紹介した上で、考察したいと思います。
2 映画の著作物の著作者について
多くの裁判例は、特に「著作者」の基準を示すことなく、全体の予算の策定や撮影・編集作業の指示などを総合考慮して、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文)を判断しています。
この点、地裁判決は、出版社である被告から委託を受けて映画の著作物である本件映像の制作した原告及び医学書の執筆者として受託者を被告に紹介するなどした医師(以下「医師」といいます。)を、著作者と認定しました。
しかし、高裁判決は、医師の関与は、本件映像の制作を監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供というべきものであって、本件映像の具体的表現を創作したものとは認められないとして、原告のみを著作者と認定しました。
3 映画製作者について
東京高裁平成15年9月25日判決以降の裁判例は、著作権法2条1項10号の文言及び立法趣旨から、①映画の著作物を製作する意思を有し、②当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務の帰属主体であって、そのことの反映として、③当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体を検討した上で、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)を判断しています。
この点、地裁判決は、本件映像の制作に関する経済的な収入・支出の主体となる者は、原告ではなく、医師であったと判断して、本件映像の映画製作者は医師であると認定しました。
しかし、高裁判決は、出版社である被控訴人(一審被告)と医師との間で、医師が本件書籍の出版に必要な費用を調達するに足りるだけの購入先を確保できない事態が生じた場合に、医師が不足分の費用を負担するとの合意が成立したとは認められず、被控訴人(一審被告)が最終的に不足分の費用を負担すべき立場にあったと判断して、本件映像の映画製作者は被控訴人であると認定しました。
4 考察
著作権法上の構造上、発注者から委託を受けて映画の著作物を制作した者(以下「受託者」といいます。)が、当該著作物の著作権者と認められるためには、当該著作物の著作者であることのほか、著作権法29条1項が適用されないことが必要です。そして、一般に、同条の参加約束は緩やかに認められているため、受託者が映画製作者であると認められない場合には、結果として、受託者に著作権は帰属しないこととなります。
この点、受託者は、通常、映画の制作に関する経済的な収入・支出の主体等ではなく映画製作者と認められないことから、受託者が当該著作物の著作権の帰属について争うことは困難と思われます(注3)。したがって、受託者としては、作業開始に先立って、契約により完成した著作物の著作権の帰属等について定めておくことが肝要です。
注1)映画の著作物には、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」が広く含まれます(著作権法2条3項)。
注2)詳細については、こちらを参照してください。
注3)この点、大阪高裁令和元年11月7日判決は、著作者であることを基礎付ける主張と映画製作者であることを基礎付ける主張とは異なることを指摘しています。