1 はじめに
2024年11月1日に特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」といいます。)が施行されました。委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付に関し、特定受託事業者(注1)の著作権その他の知的財産権が発生する場合には、業務委託事業者(注2)は、フリーランス法の定めを遵守する必要があります。また、フリーランス法の適用とは別に、一定の取引には、独占禁止法及び下請法(以下、独占禁止法と下請法を併せて、「独占禁止法等」といいます。)も適用されます。
以下、委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合における、フリーランス法の適用上の留意点について述べます。
2 業務委託の際の明示義務
業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をした場合には、直ちに、公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(以下「公取委規則」といいます。)第1条に定めるところにより、明示すべき事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければなりません(フリーランス法第3条。以下、当該書面又は電磁的方法による明示を「3条通知」といいます。)。そして、業務委託の目的たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合には、業務委託事業者は、以下の事項に留意する必要があります。
⑴知的財産権の譲渡・許諾の範囲の明示
業務委託事業者は、3条通知において特定受託事業者の給付の内容を明示しなければなりません(公取委規則第1条第1項第3号)。そして、業務委託の目的たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者が、目的物を給付させる(役務の提供については、役務を提供させる)とともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「給付の内容」とした場合には、業務委託者は、3条通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要があります(注3)。
⑵知的財産権の譲渡,許諾に係る対価の額の明示
業務委託事業者は、3条通知において報酬の額及び支払期日を明示しなければなりません(公取委規則第1条第1項第7号)。そして、業務委託の目的物たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者が、目的物を給付させる(役務の提供については、役務を提供させる)とともに、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡、許諾に係る対価を報酬に加える必要があります(注4)
3 フリーランス法と独占禁止法等の適用関係
業務委託の相手方が特定受託事業者の場合にも、取引の発注者が事業者であれば独占禁止法が、取引の発注者が資本金1,000万円超の法人であれば下請法が適用されます、具体的には、業務委託に伴い特定受託事業者に知的財産権が発生・帰属する場合に、特定業務委託事業者(注5)が、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に帰属させる場合で、かつ、上記の業務委託を行う期間が1か月以上の場合(注6)などです。
上記の場合には、不当な経済上の利益の提供要請を禁止したフリーランス法第5条第1項第5号の適用があり得るほか(注7)、継続して取引する業務委託事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることで、当該業務委託事業者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは(注8)、優越的地位の濫用として独占禁止法第2条第9項第5号ロの適用が問題になります。
ただし、フリーランス法と独占禁止法等に重複して違反する場合でも、行政による法執行上、フリーランス法が優先され、重ねて独占禁止法等に基づく措置が取られることはありません(注9)。
(注1)特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、①個人であって、従業員を使用しないもの、②法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。以下同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもののいずれかに該当するものをいい、組織としての実態を有しないものです(フリーランス法第2条第1項)。
(注2)業務委託事業者とは、特定受託事業者に業務委委託をする事業者です(フリーランス法第2条第6項)。
(注3)公正取引委員会・厚生労働省・令和6年5月31日「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(以下「考え方」といいます。)8頁参照
(注4)考え方10頁
(注5)特定業務委託事業者とは、業務委託事業者であって、①個人であって、従業員を使用するもの、②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもののいずれかに該当するものです(フリーランス法第2条第6項)。
(注6)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令第1条参照
(注7)例えば、①特定業務委託事業者が特定受託事業者に発生した知的財産権を、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させる場合や、②物品の製造を委託する場合において、業務委託時に特定受託事業者の給付の内容になかった知的財産権やノウハウが含まれる技術資料を無償で提供させるなどして特定受託事業者の利益を不当に害する場合は、不当な経済上の利益の提供要請に当たります(考え方38頁参照)
(注8)不当に不利益を与えるか否かは、発注事業者が対価の支払を行っているか、その対価は発生する不利益に相当しているか、成果物の作成に係る報酬に権利に係る対価が含まれる形で交渉が行われているか、当該権利の発生に対する発注事業者による寄与はあるかなどを勘案して総合的に判断されます(令和6年10月18日改定「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」18頁参照)。
(注9)公正取引委員会・令和6年5月31日「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」参照。