業務委託契約における委託者の離脱を制限する条項の有効性について

Posted by Hideto Nakai on 2025/09/04

1 はじめに

業務委託契約その他の継続的契約において、一定期間は委託者が契約関係から離脱することを制限する趣旨の条項が設けられることがあります。具体的には、①中途解約禁止条項、②解約違約金条項です(注1)。

以下、準委任型の業務委託契約を念頭に、近時の裁判例を紹介しつつ、その有効性について検討します。

2 中途解約禁止条項の有効性について

まず、委託者による中途解約を禁止する条項の有効性について検討します。

前提として、準委任型の業務委託契約においては、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であるという民法656条が準用する651条1項の趣旨目的から、各当事者は、明らかに解除権を放棄したと認められる特段の事情がない限り、委任契約の解除をすることができ、委任者の解除により受任者が不利益を被る場合には、受任者は、同条2項に基づいて委任者から損害の賠償を受けることによって、その不利益を填補されれば足りるものと解されています(最高裁昭和56年1月19日判決参照)。

それゆえ、受託者が委託者に対して中途解約の禁止を主張するためには、黙示の合意ではなく、業務委託契約書上、委託者が解除権を放棄する旨明記することが必要と考えられます。のみならず、当該契約書が受任者の用意した定型書式である場合には、仮に、委託者が解除権を放棄する旨明記されていたとしても、契約締結に至る経緯等の個別事情を勘案して、上記の特段の事情の存在が否定されることもあり得ると思われます(東京地裁令和6年7月8日判決参照)。

3 解約違約金条項の有効性について

次に、委託者が合意解約または自己都合で解約した場合の違約金条項の有効性について検討します。

上記の違約金条項は、委託者の支払うべき賠償額(民法651条2項参照)を予め定めるものであり、その任意の判断による解約を事実上制限する効果があると考えられます。ただし、違約金の額が契約時に予想される損害額または実損額とかけ離れて高額に定められた場合など、著しく合理性を欠く場合には、裁判上、公序良俗に反すること(民法90条)などを理由に、その全部または一部が無効と判断されることがあります(注2)。

この点、近時の裁判例は、一般論として、①約定の内容が当事者にとって著しく苛酷であったり、約定の損害賠償の額が不当に過大であるなどの事情のあるときは、公序良俗に反するものとして、その効力が否定されることがあり、②公序良俗に反するとまではいえないとしても、約定の内容、約定がされる至った経緯等の具体的な事情に照らし、約定の効力をそのまま認めることが不当であるときは、信義誠実の原則により、その約定の一部を無効とし、その額を減額することができる旨判示しており、同種の事案において参考となります(注3)。

いかなる場合が上記①または②に該当するかは個別具体的な判断によりますが、特に準委任型の業務委託契約においては、上記2のとおり、各当事者の解除の自由が原則とされていることから、解約違約金の額が契約時に予想される損害額または実損額と比べて高額に定められた場合、解約違約金条項の全部または一部が無効と判断される可能性が高くなるものと考えます。


(注1)受託者の離脱を制限する効果を有する退職後の競業禁止合意の有効性については、こちらの記事参照。

(注2)従来、民法420条1項が「当事者は、債務の不履行について損害賠償額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することはできない。」と定めていたところ、平成29年民法改正(令和2年4月1日施行)が同項後段を削除したことから、今後、裁判所による賠償額の調整が積極的に図られる可能性があります。

(注3)福岡高裁平成20年3月28日判決。判断基準時を契約時と損害発生時に分けつつ、同旨を述べる見解として、磯村保編(難波譲治執筆)「新注釈民法(8)」757、765頁参照。