バンドスコアの模倣性について

Posted by Hideto Nakai on 2025/11/23

1 はじめに

バンドスコアとは、バンドミュージックについて、ボーカル、ギター、キーボード及びドラム等のパートに係る演奏情報が全て記載されている楽譜のことです。バンドスコア、著作権法6条所定の著作物に該当しないものと解されていますが、その制作には、バンドミュージックの楽曲(原曲)の演奏を聴音して、それを楽譜に書き起こすという作業(採譜)が必要であり、これらの作業には相応の労力や技能を要します。そのため、他人が制作したバンドスコアを模倣してバンドスコアを制作し販売等(インターネット上に無料で公開し広告収入を得る行為を含みます。以下同じ。)をする行為については、不法行為が成立するものと解されています。

とはいえ、バンドスコアには、原曲に近付けて演奏できることを目的として制作されるものであるため、その表記内容の類似性から、直ちに模倣性を認定できません。そのため、バンドスコアの模倣性の判断基準及びその具体的判断が問題となります。この点、東京地裁令和3年9月28日判決(以下「一審判決」といいます。)と東京高裁令和6年6月19日判決(以下「控訴審判決」といいます。)とで異なった判断が示されましたので、以下、検討したいと思います。

2 一審判決

一審判決は、原告会社が先行公開したバンドスコア(原告スコア)について、特に、原告による独自の表記や、明らかな誤りが一致しているなど、被告会社が原曲から独自に採譜した場合にはおよそ一致していることが有り得ない表記が一致している場合には、被告会社が原告スコアを模倣したと認められる旨判示した上で、原告会社の請求を棄却しました。

3 控訴審判決

控訴人判決は、①被控訴人会社が控訴人スコアを模倣したか否かについての具体的な判断基準を判示した上で、「模倣主張楽曲」について、被控訴人会社による控訴人スコアの模倣を認めるとともに被控訴人会社が控訴人スコアを入手し、これをあらかじめ採譜者に送付して被控訴人スコアを制作していた楽曲本件楽曲である限り、模倣性につき個別具体的な立証がない楽曲も含めて、被控訴人会社は控訴人スコアを模倣したものと推認する旨判示し、被控訴人の請求を一部認容しました。

4 検討

模倣性の判断基準について、控訴審判決は、控訴人スコアの明らかな誤りやその特有の表記が被控訴人スコアに引き継がれている場合又は演奏ポジションが一致している場合には、模倣性が強く推認されるなどと判示している点など、基本的な考え方においては、一審判決と共通するところが多いといえます。しかし、控訴審判決は、一審判決と比べて、詳細に考慮要素を列挙した上で、その具体的判断においても、判断基準に忠実かつ厳格に評価を加え、具体的な検討対象となった「模倣主張楽曲」全てについて、被控訴人会社による控訴人スコアの模倣を認めました。この点、原曲に近付けて演奏できることを目的として制作されるという特徴を有するバンドスコアを、著作権法6条所定の著作物に近いものとして捉えるかについての、裁判所の評価の相違が反映したものと考えられます。

さらに、控訴審判決は、上記3②のとおり、控訴人が模倣を主張した「本件楽曲」全てについて、被控訴人会社は控訴人スコアを模倣したものと推認する旨判示して、被控訴人の請求を一部認容しました。上記の推認については、先行公開されたバンドスコアを参考にしてバンドスコアを制作する行為を、「フリーライド」として否定的に捉える価値判断が表れているものと思われます。