A2-1 発注者が、元のイラストに依拠して、創作性のある別のイラストを制作した場合には、翻案権侵害(著作権法27条)が成立しますが、著作権者(受注者)が翻案を発注者に許諾し、または翻案権を譲渡した場合には、翻案権侵害は認められません。契約上、翻案の許諾等が明示的に約定されていない場合には、発注者の使用目的等から一定の改変が許容されているかどうかを検討する必要があります。その結果、翻案権侵害が認められる場合には、発注者に対して損害賠償を請求することができます。
翻案権侵害が否認される場合でも、同一性保持権侵害(著作権法20条)の有無が別途問題となりますが、それが認められる可能性は低いと考えられます。まず、契約において著作者人格権の不行使特約が存在する場合には、通常、同一性保持権侵害は認められません。また、契約において著作者人格権の不行使特約が存在しない場合でも、翻案権侵害が否認される以上、黙示の同意が認定されることにより、同一性保持権侵害が否認される可能性が高いと考えられます(注1、2)。
注1)著作者が、第三者に対し、必要に応じて、変更、追加、切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合には、第三者が当該著作物の複製をするに当たって、必要に応じて行う変更、追加、切除等の改変は、著作者の同意に基づく改変として、同一性保持権の侵害にはならない旨判示した事例として、知財高裁平成18年10月19日判決参照。
注2)高林龍・標準著作権法第5版246頁は、改変に先立って当事者間で契約締結等の折衝行為がある場合には、黙示の同意の存在を認定することによって、改変が著作者の意に反しないと認められる可能性を示唆しています。