1 はじめに
不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の「商品等表示」を使用等することを、不正競争の一類型として定めています。この点、商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものでないことから、特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないと解されています。
そして、上記の特段の事情に該当するか否かは、一般に、商品の形態が、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」といいます。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(以下「周知性」といいます。)であると認められるか否かにより判断されるものと解されています(以下「本基準」といいます。注1)。
しかし、近時、本基準を挙げつつも、直截に商品形態の出所表示機能の有無を問う裁判例が散見されます。そこで、比較的近時の裁判例を整理して、本基準の実質的な射程範囲について検討します。
2 近時の裁判例の整理
商品形態の「商品等表示」(不競法2条1項1号)該当性に関する主な裁判例は、別表のとおりです(以下、括弧書きで別表の番号を示します。)。
別表に掲載したすべての裁判例で、本基準が示されています。その上で、多くの裁判例では、特別顕著性及び周知性のそれぞれの要件充足性を検討しており、その結果、肯定の結論を導いたものもありますが(3、4、5、7、9、10)、特別顕著性等を否認したものもあります(6、8、11)。
他方で、直近の2つの裁判例である東京地裁令和4年12月23日判決(1)及び東京地裁令和4年12月20日判決(2)は、本基準に続けて、「商品の形態が、取引の際に出所表示機能を有するものではないと認められる場合」には、特定の出所を表示するものとして特別顕著性又は周知性があるとはいえず、上記商品の形態は、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないとの判断基準(以下「新基準」といいます。)を示した上で、いずれも、商品等表示該当性を否認しています。
3 検討
新基準を採用した裁判例(1、2)では、当該商品の需要者が医師薬剤師その他の専門家に限られており、取引の際にそもそも商品の形態に着目して購入するものではないという特殊性があるといえます。このような事情は、裁判例11でも存在しましたが、同裁判例では、需要者が医師等に限定されている点については、周知性の有無を検討する中で取り上げられるのみでした。
なお、裁判例7は、控訴人製品の形態的特徴は、出所表示機能を果たさないとの被控訴人の主張を排斥する場面で、需要者である幼児の親にとって、幼児用椅子の安全性は、通常、購入時に最も重視する要素であるところ、需要者は、控訴人製品の選択に際し、安全性確保のために重要な意義を有する「部材A」の構造に強い関心を持つと判示しています。このように、取引の実情に鑑みて、当該商品の需要者が商品の形態に着目して購入するかどうかという視点は、従来から存在していたものといえます。
4 まとめ
当該商品の需要者が医師薬剤師その他の専門家に限られ、かつ、当該商品の使用上の安全性確保が特に要請される場合には、最終消費者との中間に立つ当該商品の需要者において、商品の形態が出所表示に果たす役割は極めて小さいものと考えられます。このような場合には、商品の形態が需要者における商品選択において重要でないと判断されることから、裁判において新基準が採用される可能性が高いものと思われます。
注1)経済産業省知的財産政策室編・逐条解説不正競争防止法[第3版]70頁参照。