退職後の競業禁止の合意の有効性について

Posted by Hideto Nakai on 2025/03/11

1 はじめに

事業者が、労働者や業務受託者等との間で、退職後の競業禁止を合意する事例はまま見られます(注1)。しかし、その中には禁止の対象が抽象的で、かつ、何らの限定も付されていない事例も珍しくありません。
以下、近時の裁判例を分析して、退職後の競業禁止の合意(以下「競業禁止合意」といいます。)の有効性について検討します(注2)。

2 近時の裁判例の分析

検討の対象としたのは、2018年以降の裁判例15件です(別紙一覧表参照)。そのうち、競業禁止合意が有効とされたのは3件、限定解釈の上で有効とされたのは4件、無効とされたのは8件です。概ね、使用者の利益、退職者の地位、制限の範囲及び代償措置の4要素を総合考慮して、競業禁止合意の有効性を判断していますが、事案の特殊性に応じて、独自の判断基準を立てたものもあります(裁判例3)。

3 検討

以上のとおり、無効事例が約半数であり、全般的に、競業禁止合意の有効性に関する裁判所の評価は厳しいといえます。この点、有効又は限定解釈の上で有効とされた事案においても、結論としては請求棄却となっている事例もあることは注目に値します(裁判例12、13)。
ここで、有効事例に着目すると、投資事業という業務の性質上、特定の従業員に対して、禁止される競業の範囲を明確にした上で、相当な期間に限ってなされたものと評価された結果、代償措置の有無を検討するまでもなく、有効とされた事案があります(裁判例2、5)。しかし、このように事業者の行う事業の特殊性から、競業禁止合意の必要性・合理性を説明できる事案は希ではないかと思われます。
他方で、限定解釈の上で有効とされた事例に着目すると、使用者の利益を顧客の維持利益と捉えた上で、競合禁止合意の対象を、退職者から既存顧客に対する営業活動を行うことに限定した事例があります(裁判例1、9、13)。このうち、裁判例9及び13は、禁止の対象となる行為を、既存顧客に対する退職者からの積極的な営業活動に限定した場合には、競業禁止合意が有効と判断される可能性が高くなることを示唆するものと考えられます。


(注1)2012年に経済産業省が約3、000社を対象に実施した調査では、労働者と競業禁止の契約を従業員と結ぶ企業は、14.3%です(2025年1月31日・朝日新聞デジタル)。

(注2)2012年までの裁判例を分析した論考として、横地大輔判事著「従業員等の競業避止義務等に関する諸論点について(上)」判例タイムズ1387号5頁参照。